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7月, 2011 のアーカイブ

下野竜也の新境地

7月18日は東京オペラシティコンサートホールで下野竜也が読売日本交響楽団正指揮者としてヒンデミットとブルックナーの新境地に挑んだコンサートに出かけた。今宵の目玉はブルックナー交響曲第4番〈ロマンティック〉。下野にとってブルックナー・シンフォニーは特別な存在であるはず。これまでヒンデミットとドヴォルザークの作品を広く取り上げオケの彩の多様さを際立たせながら見事にオケをコントロールする実力を示してきた。どちらかというと大曲よりもミッドサイズの作品を掌握するのが得意と映っていた。

これまで大阪フィルとの交響曲第0番の録音はあるが、伝統ある読響定期で第4番を取り上げるのはよほどの勇気がいっただろう。と云うのも、大フィル研究員として研鑽を積んだ恩師、朝比奈隆の十八番であり、常任指揮者として読響の発展を支えてきたスタニスラフ・スクロヴァチェフスキの得意作品でもあるためだ。この二人の世界的ブルックナー指揮者は解釈において対極にある。朝比奈は常にハース版に固執しインテンポで頑固な造形を示すのに対し、ミスターSはノヴァーク版を基調に一部改訂版の要素も取り入れ、終楽章では銅鑼まで登場させるアトラクティブな演奏(小兵ザールブリュッケン放送響との録音)。さあて下野のアプローチはどんなだろうと興味津々だった。結果的にはハース版を使用。しかし第3楽章のトリオではオーボエに替えてフルートとクラリネットに主旋律を吹かせてノヴァーク版に準拠。ハース版崇拝者のギュンター・ヴァントもこの方法を採用している。

さて第1楽章から振り返ってみよう。冒頭はわずかなホルンのミスが残念であったが、翌日のサントリーホールでの定期公演では修正されるであろう。弦セクションを含めてテヌート気味に進めていくことで音楽の幅を出そうとしたのは朝比奈にもミスターSにもない新境地だ。それでいて金管を強弁させず、僅かなディミニュエンドも用いてフレーズを納める(例えば練習番号B直前やFやKの箇所)ことも効果的であった。第2楽章はヴィオラが長い深遠な旋律を演奏するが音色の統一感が今一つだったのが残念。(舞台を見るとーなんとヴィオラ首席にN響の飛澤さんが座っているじゃない。何故???) またヴァイオリンの弓使いも不揃い。アダージョではないのだという意識をもっと強調してくれると期待していたのだが、下野ならリハーサルでもっと主張できたはず。第3楽章は小気味よいテンポで段落毎のダイナミクスの変化も立体的で下野のよさが全面的に出た。その成果がそのまま終楽章にも受け継がれ音楽の高揚を迎え、溌剌とした中に渋さを兼ね備えた拡張感を持った秀演となった。Langsamer以降も4つ振りと3つ振りを振り分けず、朝比奈譲りの終始2つ振り。ミスターSが読響で数年前に見せたようなミステリアスさはないものの〈ロマンティック〉という作品をひたすら丁寧に解読し聴衆へのメッセージとして伝えてくれた。

下野竜也さんにブラボー!

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